クリスマスの恋人③
年が明け、仕事が始まると
クリスマスの日から抱え込んだ、”胸のなかの重石”は日々軽くなっていた。
「中村さん、今年のアラフォー女子会の新年会決まったわよ!」
同期の女子の河村が、啓子のデスクに来て小声でささやく。
河村直子は、啓子と同期の女子社員。
短大卒で入社しているので 2つ年下の45歳だ。
三十路を過ぎてからの、2つの年齢の違いは大きい。
それに、直子は既婚で子供が二人いる。
同期と言っても、25年の間に
二人の人生には大きな開きがあった。
アラフォー女子会は、以前は「三十路会」というダサい名前だった。
昔は、30歳以上・独身女子の交流目的で作られたものが
時代と共に、アラフォーの女子社員も多くなり、既婚者もいる。
その会の幹事を、2年前から務める直子が
今年の新年会の報せに来たのだ。
「中村さん、今年はさぁ~参加が5名だけなのよ。
あの、途中入社で入った佐々木さん知ってる?
今回、初めて参加するんだけどぉ。
あとは、いつもの日向さんと丸山さん。
もちろん、中村さん来るでしょ~?
今年はさ。なんと! ホストクラブだから!」
直子はニヤニヤとしながら、おどけたような口調で言う。
啓子は、直子の口元に浮かぶほうれい線に目がいって仕方がない。
その一方、頭の中で繰り返し呟いていた。
ホストクラブ…。
ホストクラブか…。
あの雑誌で見た記事の事は
頭の中から、すっかり消えていた。
それが、直子から”ホストクラブ”と聞いて
急に、鮮明にあの記事を思い出した。
「えぇ・・・
河村さん、ホストクラブなんて行った事あるの?」
ワントーン高い声で、啓子は聞いた。
「やだぁー 行った事ありますよ!って
言いたいとこだけど、ないですぅ。
だから、行くんじゃないんですかぁ。
初回だと、結構リーズナブルな値段で楽しめるとこあるらしいんです。
思いきって、行っちゃいましょうよ!
11日の予定ですけど、詳しいことは後で!」
直子は、何故か最後の一言だけさらに小声で言うと
足早に、啓子のデスクを離れて行った。
「ホストクラブか…」
もう一度、啓子は頬杖をついて、頭のなかで呟いた。
スケジュール帳を取り出し
啓子は、週末の11日に何も予定は書かず日付に丸印を付けた。
年明けの一週間は忙しく
“その当日の日まで”慌ただしく啓子は過ごした。
「中村さ~ん、すごいテンションあがりません?
今日は旦那にも遊んでくるよ~って宣言して、来ちゃいました!
ウチの旦那、全く気にしないんですよ」
いつも明るい直子だが
今日は、それが3倍増になっていた。
何も聞きもしないのに、そんな事をベラベラ言うのは
逆に、亭主に遠慮があるか
もしや秘密で来ているのかもしれない。
「でも、何か怖い気もしません?」
途中入社組でアラフォー女子会に入ったばかりの佐々木が、心細そうに言う。
「河村さんはテンション上がりすぎだし
佐々木さんは不安いっぱいだし、対象的だわね」
そう言って、啓子は余裕がありそうに見せたが
内心、ドキドキして
その二人よりも、気持ちが昂っていた。
CLUB[CANDY DANDY]
新宿の歓楽街の中にヒッソリとある、隠れ家のようなその店は
芸能人も出入りする、話題の店だ。
黒地に金文字の看板を見上げて
啓子は、急に楽しみ…よりも、怖さの方が勝っていた。
建物の中に一歩入ると・・・
そこは、別世界。
少なくとも、”啓子のなかのリアルの世界”には居ないような
若い美男子たちが目の前に並んでいる。
若く、揃った男性の声。
「ようこそ[CANDY DANDY]へ」
啓子に、新しい世界の扉が開いた。
「怖い…」
啓子は、囁くような声で誰に言うでもなく
そう呟いていた…。
中山美穂「Rosa」(1991)
ホストクラブ!
行った事ありません!!
潜入してみたい気はしますけどね~ꉂꉂ(˃▿˂๑)
でもね、ホストだった!という知人はいるのよ。
これがまた、歯の浮くような事を平気で言うんだわ~~~ꉂꉂ(˃▿˂๑)
TORIA (o ̄∇ ̄)/