オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

クリスマスの恋人④

toriadecafe.hatenablog.com

啓子と同僚”アラフォー女子”たちは、いつもよりお洒落をしていた。
それなのに
CLUB[CANDY DANDY]の店内に入ると明らかに浮いている。

意外にも、20代前半と思われる若い女性客も多く
啓子たちは、急に自分たちが場違いなところに来てしまった恥ずかしさを感じていた。

5人と言う人数のせいもあるのだろうか
初来店と言うのに、ゆったりとしたボックス席に”アラフォー女子会”一同は通された。

何しろ、初めてのホストクラブ
何もわからない。
とりあえず、予算内で店にお任せにした。

ほどなく、二人の若いホストが席にやって来て挨拶をする。

「いらっしゃいませ
 ようこそ、お越しくださいました。
 今日ご一緒させていただきます。ハルマです
 どうぞよろしくお願いします。」

「いらっしゃいませ
 僕はまだ新人です…
 今日、このお席にご一緒させていただきますカイトです。
 よろしくお願いします」

ハルマは、落ち着いた雰囲気の
日本人離れしたルックスの美男子。
見るからにプロホストの雰囲気を感じる。

一方、カイトは社内の新人社員男子の中にいそうな
「普通っぽさ」が漂う。

二人のホストが、アラフォー女子5人の目の前に来ると
緊張からか、空気がぴーんと張りつめて“見えた”。

「そんな、緊張しなくても大丈夫ですよ。
 きっと、すごい怖いイメージ一杯でいらしたのかもしれないですけど
 今日のこの不思議な出逢いとご縁
 限られた時間を、一緒に楽しみましょ」

そんな、ちょっと歯が浮くような言葉も
ハルマが言うと自然に聞こえた

啓子は、直子や他の同僚に目を走らせると
彼女たちはうっとりとした表情になっている。

テーブルには、この店で一番安いウィスキーのボトルと
ちょっとした、おつまみが置かれた。
きっと、この店にしたら「安いお客」だ。
しかし、ホスト二人のもてなしは
何の手抜きも感じられず
”アラフォーのオンナたち”を話や仕草で
目一杯、笑わせて、楽しませて
そして、気持ち良くさせてくれた。

時間は、あっ!という間

お開きの時間となり
すこし、名残惜しく店を後にした。

いつも会社では、比較的おとなしい日向が酔い加減で大きな声で話始めた。

「いや~ 思ってた以上に楽しかったぁー。
 行く前は胡散臭いんじゃないかと思ったけど
 結構、雰囲気も良かったしリーズナブルだし
 何かハマる人がいるのわかるなぁー。
 でも、やっぱり
一度行った!ってだけでいいかもなぁ~
 ハマったら、やっぱ怖そう」

他の面々も、笑いながら黙って頷いた。

新宿の駅まで来ると、メンバーは
それぞれの帰り道へと散っていき
同期の直子と啓子は同じ方向に歩き始めた。

「ねぇ、中村さん お茶していきません?」
酔いがさめた声で、直子がそう言った。

「そうね… 明日は休みだし遅くなってもいいか!」
二人は駅近くの深夜営業のカフェに入った。

アイスコーヒーを手に、ゆったり座れるソファの席に二人落ち着くと
直子が改まって話始める。

「中村さん、実は私…3月で退職するんです」

「え? どうしたの? 何かあった?」

「実はね…主人の実家。北海道に引っ越す事になったんです」

直子の亭主の事はよく知っている。
何しろ、かつて啓子の配属していた営業部の2つ後輩だったのが河村健司。
啓子が直子に健司を紹介した事から付き合い、結婚に至った。
穏やかで、良い人を絵に描いたような健司だったが
入社5年目に「やりたいことがある!」と言って、会社を辞め資格を取り
今は建築関係の会社で働いている。

「実はね、主人のお父さんが2か月前に倒れて介護が必要になっちゃったんです。
義母だけでは、ちょっと厳しい状況のようで…。
両親を本気でサポートとしようとすると
主人も今の会社辞める事になるし…。
…で、
私も…仕事辞めたくないなとか
子どもの学校の事どうしようとか、色々思ったんですけど…
とにかく、主人は何とかしたいっていうか何とかなるだろうって感じで…ね。」

 

直子は、そこまで一気に話すと
大きくため息をついた。

「主人の両親は良い人だし、私も助けたいと思うんですよ。
でも、なんかねーなんだろうな。
あー全部変わっちゃうなと思うと、ちょっとやりきれない。」

 

「そーなんだ…」
啓子はその一言を言うのが、精一杯だった。
なるほど…
直子が、今日の日を楽しみにしていたのがわかった。

そして、今
啓子は
カタチの見えない寂しさと
「置き去り」にされたような虚無感に包まれた。

啓子は、直子の事が大変だな…と思う一方
明らかに、自分とは違う時間の流れと
“人のなか”で生きている彼女が、何故か羨ましく見えた。。

47歳・独身・恋人なし
キャリアウーマンとは名ばかり。
結婚するだろうと思っていた男(ひと)を、滑稽なカタチで失くした。
ひとり…とにかく、独り。
それにアラフォーじゃなくて、アラフィフ。

私、今まで何やってきたんだろう。
… to be continued.


Amelia Curran - Tired Circle (2002)

ちょっと、しんみりしております(* ̄▽ ̄)フフフッ
ねー。これってば
この年齢で
しかも、独り身だからこそ感じちゃうモノなんでしょうかね。
どんな立場でも、それぞれに大変なんだけれど
それでも、誰かとか何かを見て、虚無感が襲ってきたりっていう。

さてさて、この後
啓子さん、どうなるの。

TORIA (o ̄∇ ̄)/

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