オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

クリスマスの恋人⑤

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アラフィフの独身女子は、社内にまだ居る。
資材管理室の室長
52歳・独身・バツなし・勤続30年の大山だ。
47歳・オンナ独り身で働いている啓子にとって、大山の存在は心強い。
だが、同期の直子が居なくなる事の喪失感は、啓子に思いのほか打撃を与えていた。
結婚すると思っていた、同期の政幸の存在がクリスマスに消え
直子が3月には、辞めていく。
気が付けば、もう社内にざっくばらんに話せる“仲間”は誰もいない。
いや…この年齢まで、仕事仲間に
そんな仲間が居た事の方が、不思議なのかもしれない。

オンナの友情関係は
時と場所、そして環境で変化してしまう。
あ…オトコとの方が、変化どころか壊れてしまう。

会社どころか学生時代の知人・友人も皆結婚し、子育てや介護に忙しい。
共通の話題もなく、疎遠になって長い。

気が付くと・・・「誰も居ない」
気軽に話す相手が、今や誰ひとり居なくなっていた。

「今さら、何が出来るかな」
「今から、何が出来るかな」
そんな事を繰り返し、思う日々が続く啓子…。

金曜の就業間近の時は、皆…すこし落ち着かなくなる。
しかし、啓子には憂鬱でしかない。
週末2日を思うと、特に何があるわけでもない。

たった一人の課のデスクは、営業部の横に“ちょこん”とある。
それも、窓際に近い。
そこから、定時にあがる社員を見ながら、啓子も誰に言うでもなく
「帰るか」とつぶやいた。

外に出ると 雪がちらついている。
寒いけれど、このまま家に帰りたくない。
啓子は何も考えずに、クルリと向きを変え、家とは逆の方向に歩き始めた。

地下鉄に乗り、途中でJRに乗り換え
降り立ったのは新宿。
そして、辿り着いたのは
あの CLUB[CANDY DANDY]

迷いなく、まるで吸い寄せられるように足が向いたはずなのに
入口まで来ると、入ることに躊躇した。
すると、後ろから

「もしかしたら、先日いらしてくださった…」と
若い男に声を掛けられた。
振り返ると ”あの日”
席に着いてくれたホストのひとり、新人のカイトだ。

「え、何で 私のこと… 覚えていてくれたの?」

啓子は驚き、囁くような小さな声で、そう言った。

すかさず、カイトは爽やかな笑顔を啓子に向けながら、ハキハキとした口調で答える。

「ちょっと見えた、横顔でわかりましたよ。確か、啓子さん?でしたね。
 今日は、もしかしたらお一人でいらしてくださったんですか?」

「あー、ううん
 いや、ちょっと入りづらいなと思って 迷ってたの」

すると、カイトは啓子の背中をそっと押し
「そんな事を言わず、どうぞ入ってください」
そう言って、優しく店内に導いた。

席に通されると
案内役の黒服が
「御指名のホストなどいますか?」と聞いてきた。

啓子は一瞬、目をキョロキョロとさせてから

「カイトさん、お願いします」と
自分でも驚くような、大きな声で答えた。

ほどなく、カイトが啓子の席にやってくると
初めてホストクラブに来た”あの日”と同じような緊張感が沸いていた。

「啓子さん、御指名いただいてありがとうございます。
 僕、指名してもらったの 啓子さんが初めてですよ!」

カイトの目は、心なしか 潤んでいる。

啓子は何を言っていいのかわからず、黙ったままだった。

ただ、大変な処に来てしまったかもしれない
そんな思いが、いまさらこみ上げていた…to be continued.


安全地帯「デリカシー」(1986)

あ~危ない・アブナイ。
隙間だらけで、あぶないです。

TORIA (o ̄∇ ̄)/

 

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