オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

クリスマスの恋人⑨

toriadecafe.hatenablog.com

 

まだ12月に入っていないと言うのに
町には、クリスマスの飾りが見え始めた。

相変わらず、CLUB[DANDY DANDY]には通っていたが
その頻度は減っていた。

カイトには
部署替えになり、仕事が忙しいと言ったが
本当のところは
「お金の底」が見え始めていた

仕事はやはり単調で、室長・大山とは仕事以外の会話は無い。

今日は、嘱託の林が出勤している。
それでも、いつもと何も変わらない。

背後で、ドカドカと足音が聞こえ
「おはようござっす」と
乱れた挨拶と共に、情報処理室の次長・上條が入って来た。
社内でも、酒癖の悪さと口の悪さでは評判の男だ。

大山に書類を持ってくると、すぐに目を通して
ハンコをくれ!と言っている。

上條は、啓子に目を向けると話しかけてきた。
「あー、お宅。中村さんだよね。
 ここの部署にいたんだぁー。
 中村さんって言えばさ、あの、アレだよ…同じとこにいた
 アレ何だっけ、ほら総務の若い子と結婚しちゃった
 あいつと付き合ってんのかと思ってたよぉー」

啓子は、パソコンの画面を見たまま取り合わないでいる。

「中村さん、胸でかいねー。
 でもさー、もうそれなりの歳なんでしょー
 どうしちゃってんのよ。
 結婚しなくてもいいけど
 男とは適当に遊んでおいたほうがいいよぉ~体もてあましちゃうでしょう」

上條の下品な口調と、言葉の数々に
啓子はうつむくしかない。

すると…
大山が、いつもの冷静で淡々とした口調で「上條さん」と呼んだ。
啓子は、大山が書類にハンコをついたと思っていた…が
ゆっくりとした口調でハッキリ話し始めた。

「上條さん、さっき中村さんに言った事
 もう一度
 私に聞かせてくれません?」

上條は、大山のにじり寄る感じに、明らかに引きつっている。

「わたしなんかが、ガタガタ言っても
 また、おもしろ可笑しく言われるんでしょうけど
 わたしの部下に、無礼な言葉と態度は許せませんわ。
 あなたから見たら
 わたしや中村さんはハイミスの給料泥棒で
 恋人も居なくて、欲求不満なオンナに見えてるんでしょうけど」

「いや…そんな」
上條は、心なしか後ずさりし始めている。

大山は笑顔で、なおも続ける…
「上條さん
 わたし、最後に言わせてもらいます!」
そう前置きすると、口調が一気に変わった・

「女にチンケな小言しか言えないなんて
 上條さん!
 あんた、足と足の間についてるはずのもんが行方不明じゃないんですかぁ~
 まっ、付いてたって お粗末じゃ~しょうがないけどね。 

あら!これじゃ
わたしも上條さんと同じでセクハラとかモラハラって言われちゃいそう。
あんた!なんて言っちゃったし~。

上條さん、中村さんもわたしも
あなたが思うほど、困ってないんですよ。
ココロもカラダもねっ!」

一気に大山は捲し立てると
すぐさま、いつもの大山に戻り
 「あ、書類ね。はい、どうぞ。 御苦労様」と言い
上條の手に、書類を押し付けた。
当の上條は、逃げるように部屋を出て行き
その走り去る足音は、しばらく響いていた。

「あの… 私のために、すみません」

「えっ、別にあなたの為に言ったんじゃないわ。
 私が腹が立ったのよ。
 ああいうのは、一度ガツンとやられると
 もう、言わなくなるわー。小心者なのよ、ああいう奴って。

 中村さん、うつむいてちゃ駄目よ。
 私もね、あなたと同じ歳くらいの時
 結婚とか仕事とか
 それこそ老後の事とかまで考えちゃって、下ばっかり見てた時があるの。
 でもね、そうやってると損だわよ。
 
 何も無くても、不安でも
 前を見てないと
 ちゃーんと”必要な出会い”
 ”かけがいのない出会い”を見つけられない。

そんな、うつむきなさんな」
 
大山の言葉は、啓子に響いた。

冴えないおばちゃん風情の大山が
今は、格好よく見える。
何も見えていなかった、見ようとしてなかった・・・

仕事を終えて、啓子はカイトの待つ新宿の町へ。ホストクラブへ。
店に入ると、すぐに今日の事をカイトに話したかった。
しかし、言葉は出てこなかった。
それどころか、底をつきそうなお金の事が頭をよぎった。

「カイト・・・
 私ね、これから…あんまり来れないかも」

「えーっ、啓子さん何で?」

「うーん」
そう言う啓子の様子に、カイトは事情を読み取ったようだ。

「でもさ、クリスマス・イベントだけは来てよ!
 イヴの日、僕は啓子さんだけの恋人だよ。
 啓子さんの「クリスマスの恋人」」」

そんな、台本に書いていそうな言葉をカイトは繰り返す。

今年は、ひとりで居たくない

ファミリーレストランに佇む
去年の「自分の姿」を想い出す。

「そうね…
 クリスマスは必ず来るわ!」

でも、ココロの中で言葉を続けた。

それが、此処に来る最後になるかもしれないけど…to be continued.

 


Carpenters - (They Long to be) Close to you (1970)


お金の底が見えた時
見えるものもあるのですね。
そう、人生って
その場その場で、見える景色が違うんだよね~。

 

TORIA (o ̄∇ ̄)/

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