オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

人事課の女②~あるOLの回想

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「今年は新卒も中途採用も、女子はあなた一人だったのよね」

課長の木村がはそう言いながら
研修マニュアル冊子のページをめくっている。

「フォロー研修と言ってもね、
 あなたの場合は、少し社会人経験もあるし
 私から見ていても、特に何か研修で改めないとならない点は
 無いと思うのよ。
 でも、とりあえず社則で決まっているので
 今日は午前中までに、この課題で作文を書いてください。
 あとは、午後は研修の一環作業として
 今日、夕方から会社の永年勤続表彰のパーティーがあるので
 その準備をお手伝いしてもらいたいの。 
 準備だけだから、終業までには終わりますから」

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静かな時間が流れる

わたしのペンを走らせる音だけが、会議室の中に響く。
向かいに座る木村は
仕事の資料に、熱心に目を通している。

わたしは、作文用紙のマスを埋めながらも
何となく、目の前の木村が気になっていた。
そんな雰囲気が伝わったのか
それとも、単に偶然なのか
木村が資料から目をはなし
目の前に、視線をずらした。

「特に、休憩を入れないから
 もし、のどが渇いたり、化粧室に行きたかったら
 自由に行ってもらっていいですからね」

「あの・・・」

わたしは、初めて今日
言葉らしい言葉を、発した。

「もう、ほとんど書きあがっていて。
 あとは、読み直してチェックするだけです」

「あら! 早いわね。
 そういえば、あなた文学部だったわね。
 やっぱり、文章を書くのが得意だったりするのかしら」

気のせいか、いつもより
木村が砕けた表情になった。

「でも、まだ お昼まで1時間あるわね。
 じゃ、ちょっと見直ししていてください!
 私、今飲み物持ってきますから
 この後はお昼まで、すこしお話ししましょう」

そう言って、木村は会議室から出て行った。

作文は、我ながら上手く纏まっていると思った。
チェックを終えて、ペンを置くと
木村が紙コップに入った紅茶を2つお盆に乗せ、会議室に入ってきた。

「書き終えましたので、お願いします」

「じゃ、あとで ゆっくりと拝見させていただきますからね。
 はい、お疲れさま」

紙コップがわたしの目の前に置かれた。
・・・と、同時に
木村が話し出した。

「研修って感じじゃなくて
 ざっくばらんに、この会社で働いてみて
 感じた事や、悩んでいる事なんかも、何かあったら聞かせてください。
 やっぱり、まだまだ女性だと色々とね
 やりづらい事とか、部署では言えない事もあるでしょう」

わたしは、そう言われても
何かを言葉にするのを、躊躇していた。

「そういえば、転職の理由に
 業務に興味があるのと、ステップアップしたい
 っていうような事が書いてあったけど
 何か、具体的にうちの会社でやりたいことって あるのかしら?」

木村は、優しく丁寧に
わたしに呼びかけるように、話を進める。

しかし、わたしは、その問いからは“ずっとずっと外れたような”事を
口にしていた。

「木村課長、わたし
 入社面接では、格好良いような志望動機言いましたけど
 本当の転職の理由は失恋なんです。
 そんな単純なもんじゃないって、わかってるんですけど
 環境を変えれば
 忘れられるかも
 また、一から何もかも始められるかも・・・
 そんな、どうしようもない理由で」

わたしは、言ってしまってから
大変な事を言った事に気づいた。

しかし、意外にも木村は
真剣に、聞き入り頷いている。

「そうね・・・  女性だとね
 色々 あるわね」


木村の表情には、何か「過去」に思いを巡らせているような
どこか「窓の外」を眺めているような…
彼女の横顔には、そんな思いが見えた。

わたしは恥ずかしさもあって、急に話題を変えた。

「今日の永年勤続表彰って、どなたが表彰されるんですか?」

「表彰されるのは、6名の男性社員と女性は1名よ。
 一番、勤続年数長くて表彰されるのは三枝副社長なのよ」

わたしは、ドキッとした。
渡辺が言っていた通りとすれば
その三枝副社長と木村課長は
過去に、関係があったはず。

もちろん、三枝は既婚だ。

わたしは、複雑な思いを巡らせながら
そこから先、何を話題にすればよいか急いで考えていた。

目の前にいる「人事課の女」

男など相手にもしてこない
必要ともしない
そんな”鉄の女”なのか?
それとも、わたしと同じ
世の多くの女性のように!?

ただの女なのか。

わたしは、いやらしくも
目の前の木村の
「ほんとうの顔」を見たくなっていた... to be continued.


Lady A - Just A Kiss (2011)

次回は早々、「人事課の女~最終話」
でも、まだまだ
この会社の話は続きますよ。


TORIA (o ̄∇ ̄)/

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