オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

地下室の男①~あるOLの回想

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わたしが ”地下室の男”を知ったのは、入社して間もなくのこと。
渡辺さんが 耳元で囁いた一言からだった。

「見ちゃったのよぉ~」

渡辺さんの囁きは
まるで、幽霊でも見たかのような
そんな響きを持っていた。

「え!?何をですか」

私は、まだ何もわからぬだけに
単調に言葉を返すだけだった。

渡辺さんは、何故かひそひそ声で
なおもを話し続ける。
「昨日さ、帰ろうと思ったら
 入口で見ちゃったのよ!
 お母さんに、子供二人手つないで並んでて
 ”風に吹かれて” 
 ただただ…立ってたのよ」

わたしは、なおもわからぬ話に
ますます、どう反応していいか困り果てていた。

「風に吹かれて…
 それって、何なんですか?」

「あら、知らないっ」

渡辺さんは、私が知らないのを承知で
声を掛けたはずだ。

「あのさ
 この会社にはさ、まぁー 
 どうしようもないオヤジばっかりがいるんだけど
 目も当てられないのが、地下室に一人いるのよ」

確か、地下室には ビルメンテナンスのルームと
もうひとつ、部署があるとは聞いていた。

「地下室の一人部署、史料編纂室の田代って言うんだけど
 その田代の奥さんと子供が
 たびたび、退社時間ごろになると
 ビルの入り口のとこで、田代を待ってるのよ」

「それって、お迎えってことですか?」

渡辺さんは、低く笑い声を立てた後
話を続ける。

「田代ってさ、取引先の女と出来ちゃって
 その女のとこに行ったっきりで、家に帰らないらしいの。
 それでね、困ったことにさ
 奥さんと子供がたまに、ここに来るわけ」

会社内での不倫や浮気
ドラマや小説の中では、よくある事だ。
ところが、こんな平凡な会社で…
またも、ドラマチックな事を聞く事になるとは…。
ましてや、そんな
女房が子供引き連れて、会社に押し掛けるなんて。

わたしは、話を聞かされても
にわかに信じる事は出来なかった。

「だいたいさ、田代って昔は営業で活躍してたらしいってのが
 史料編纂室よ。
 訳アリでしょ、そこからして」

渡辺は、可笑しそうに笑い 話を締めくくった。


それから、ずいぶんと時が過ぎ
わたしは、すっかり“その話”を忘れていた。

しかし…。

その日は、すこし退社時間が遅くなってしまった。
特別に用事はないが、急ぎ足でビルを出ようとした時
わたしは、思わず透かしのドアを開けようとして

「あっ!」と言ったまま、立ち止まってしまった。

その目の前には
女一人と、両脇に小さな子供が一人ずつ。。
3人の手は、しっかり繋がれている。

 

そして、その3人は

風に吹かれて立っていた…
to be continued.

 


浜崎あゆみ「A Song for xx」(1999)


風に吹かれて立っていた…
ほんとだったんですねぇ~。
事実は小説より奇なりです!


TORIA (o ̄∇ ̄)/

 

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