オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

いつか二人で⑤

toriadecafe.hatenablog.com

 

デビットの妻と名乗るカレンは
続けて、早口に喋りだした。

「デビットは、今日は仕事なのかしら。
 今日中に話したい事があるのよね.

 ま、貴方に言っても 
しょーがないわね。
また、夜にでも来るわ」

美佳は、今来た人が誰で
何が起こったのか信じられずにいた。

デビットに連絡しようにも
日中に、すぐに連絡を取れる手段はない。
とりあえず、美佳は夜のシフトのバイトに
不穏な気持ちを抱えたまま、向かうしかなかった。

バイトを終え、部屋に戻ると
デビットが美佳を“待ちかまえていた!”
そんな様子だった。

いつものように、仕事から帰り
デビットに笑って向き合えるような心境ではない。
だが、デビットも
そのワケをわかっていた。

「ごめん。本当は、こんな…
 こんな風になる前に、言わなきゃならなかったね。
 スーザン…あ、妻と会ったと思うけど
 結婚してるんだ」

美佳は、うつむいたままで顔をあげる事が出来ず
デビットの言葉を聞いていた。

「でも…もう結婚してるなんて 
 紙の上だけの事で
 僕が日本に行くすこし前から、妻とは別居してる。
 ただ、いろいろ事情があって離婚はしてない。

 あ、だけど僕がどうしようと
 誰と付き合おうと
 君が居ようと 
 妻は何とも思わないし
 大丈夫だから。 
 いつか二人で、ちゃんと居られるようになるから」

何が、大丈夫なんだろうか?

美佳は、言葉に出来ぬ複雑な思いを
表情に浮かべるしか、その夜は出来なかった。
当然、一緒に寝る気にはなれず
今夜も帰ってこないシェアメイトのスーザンのベッドで
美佳は、眠れぬまま朝を迎えた。

そして、やっと美佳はデビットに話しかけた。

「私は、貴方を信じていいの?
 これは
 ちゃんとした恋愛なの?」


デビットは、小さく頷くだけだった。

デビットの妻は、6歳も年上で
思っていた通り、キャリアウーマンだった。
何で「こんな不釣り合い」に見える二人が結婚したのか不思議だった。

スーザンはデビットの友人の姉だった。
デビットは、何事にも強さを見せるスーザンに魅かれた。
そして、仕事がバリバリ出来るスーザンは
優しいだけが取り柄のような
デビットという男が、何となく心地が良かった。
デビットは、言えば何でも家事をこなし
スーザンの喜ぶ事を、率先してやろうとしてくれた。
しかし、生涯のパートナーとしては
ふたりの「強弱」が
だんだん障害にもなっていった。

子供は居ない、妻は自立している
デビットに資産などある訳はなく
それだけに、離婚は簡単に思えるのに
何故か、二人の決定的な別れの話は進んでいかなかった。

海外では離婚も多いし
別居してる間に、彼氏彼女が出来るなんて
普通の事なのかも知れない。
デビットは「大丈夫だよ!」と言っていたが

その言葉を信じていいのか、美佳には不安しかない。

だが割と、穏やかに時間は過ぎていった。

デビットの妻が、美佳の前に姿を見せたのは
そのあと一度だけ。
デビットから、事情は聞いたのだろう。
とても、妻の立場とは思えぬ
怒りも嫉妬も何もない「余裕の笑み」を浮かべながら
カレンが言ったのは
「あなたも、その内 わかるわよ。
 彼には、骨が無いから…」


ワーキングホリデーのビザが、残り2カ月となり
先の事を考えなければならない。
デビットが結婚している状況では
美佳と結婚も、コモンロー(事実婚)の手続きも出来ない。

カナダで、デビットと一緒に居られる手段は無く
自力で、労働者としてのビザを取るキャリアも無い。
でも、離れるのは 恐かった。

”彼のお荷物になるかもしれないけど
 ビジタービザでカナダに残れないかな”
そう、考えていた。

デビットに思いきって打ち明けると
「お荷物なんて言うなよ。
 僕のそばにいてよ」
そう、言ってくれた。

だが、問題は 美佳の両親だった。
デビットと、一緒に住んでる事は言っていない。

厳格な父は、怒り狂い
真面目で、大人しい母も「帰ってきなさい」と
言うに決まっている。
でも
もう、言わないとならなかった。

やっと、思いきって受話器を取り
実家に電話をすると、母が電話口に出た。

「お母さん、もう少しカナダに居たいの。
 というか、もう居るって決めたから」
そう言うと、母の強い言葉が美佳を襲った。

「あんた、付き合ってる人いるんでしょう」

美佳は、何も返事出来ずにいた。

「お父さんには、言わないから
 ちゃんと、お母さんに話して!」

美佳は全部言うべきか
それとも、嘘をつくか
一瞬迷った。

心の奥底にあった「不穏で不安な気持ち」が
一気に溢れ出てきた。
遠くに居る母だからこそ、今は何も繕わず
言わないとならない…

そう思った。

美佳がすべてを話し終えると
母は、ひとつ小さくため息をつき
心を落ち着けようとしているようだ。

「美佳、あんた幸せ?
 幸せになれるの?
 お母さんは外国も行った事無いし
 それが、特別な事じゃないとか言われても理解できないわ。
 奥さんが、何とも思ってないって言っても
 結局は、不倫でしょ。 
 それでも、幸せなの?」
 
それ以上は、母は何も言わず
美佳も、何も言えなかった。

電話を切った後
「幸せになれるの?」
と言った母の言葉が

美佳の耳元に、何度もこだましてはなれなかった… to be continued.


HY「Song for...」(2000)

 

この微妙な不倫っていうのも、どうなんでしょうね。
なかなか、日本だと厳しい見解になりますよね・・・。

 

TORIA (o ̄∇ ̄)/

 

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