オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

いつか二人で⑦

toriadecafe.hatenablog.com

 

日本に帰ってからの美佳は
デビットと離れて暮らす不安な気持ちを紛らわす為~
そして、カナダに渡る為
出来るだけのお金を貯めておこうと
バイトに精を出した。

何故なら
お金が無い事で、また離れるのは嫌だった。

カナダを離れ、ちょうど3週間経った日の朝
デビットから、メッセージが来た。
それには、もうすぐ正式に離婚が成立しそうだと書かれていた。

そして、その数日後には
良い仕事が見つかった、と書かれており
二人の未来に、明るい光が差し込み始めた気がした。

ほぼ一日おきにビデオ通話をしていたが
デビットのパソコンが壊れたらしく、通話がしばらく出来ないと言う。

スマホからでもいいよ!と美佳は言ったが
デビットはパソコンからの方が良いから…と

ビデオ通話の機会は、減ってしまった。

デビットの新しい仕事は順調で
しかも、会社のボスに気に入られたとかで
今までにないほど、張り切って仕事をしていた。

美佳には、待ちに待っていた「朗報」
やっと、デビットと妻カレンの離婚も成立した。

二人に、もはや障害は無いように見えた。

それなのに、デビットからの連絡はさらに減っていった。

それでも、美佳の方からは毎日のように
メッセージを入れた、

「とにかく、受け入れ準備万端になったら
 急いで、来てくれ~って呼ぶから」
そうデビットは、茶目っけたっぷりに言っていたのに
その報せは来ない。

そんな中、美佳の父が胃潰瘍を患い
入院、手術したりと慌ただしくなった。
美佳の父は、デビットとの交際を知ると大反対をした。
母は、敢えて 
デビットが最近まで既婚だった事は話していなかったが
外国で結婚すると言う事に
とにかく反対だった。

だが、手術をした後
父は、一気に弱くなったように見え

こんな言葉を漏らした。

「美佳、お前が幸せになれるなら行きなさい」
その、言葉は父の本心ではないだろう。
しかし 美佳は、黙って強く頷いた。

父の入院で、毎日 病院に行ったり
母の代わりに家事をやらなければならず
以前のように、美佳はデビットにメッセージを出来ずにいた。
でも、優しいデビットの事だ
この致し方ない状況を、わかってくれるに違いなかった。

父が退院し、職場復帰したのを見て
美佳は、落ち着いてデビットに連絡出来る
やっと、カナダにも行ける…
そう思った。
デビットに何度かメッセージしてみたものの
返事は来ない。
電話しても、留守電にメッセージを吹き込んでばかり。

そんな状態が1カ月近くも続き
「もしや、病気や事故にあったのではないだろうか」と不安が募った。

カナダに居る、友人の佐和子に連絡してみると
先週、彼がダウンタウンを歩いているのを見たと言う。
それなのに
何で、何も連絡が来ないのか?

美佳は、意を決して
カナダに行く事にした。

デビットの元へ行く為に
新しく買った大きいスーツケースを二つ持ち
カナダへ向かった。

連絡が取れないのは、不安だったが
たぶん、真面目な彼の事。
仕事に集中しているんだ!
そう
思い込んでいた。

いきなり行って、驚かせよう
会えた時の事を、色々と想像した。
長いフライトも
デビットと出会った時の事を思い出しながら過ごした。

夜8時過ぎ
空港から直接、デビットの部屋を訪ねると留守だった。
大きな荷物を抱え、外で待つわけにはいかない。
佐和子に連絡すると、急にも関わらず
彼女は快く出迎えてくれ、泊めてくれた。
しかし、美佳がわざわざカナダに来た事に
「やっぱり、来ちゃったんだね」と呆れたような、苦笑いを浮かべた。

翌朝、再びデビットの部屋を訪ねブザーを鳴らすと
中で物音がしている。
美佳の胸の鼓動が、一気に高くなった。

勢いよくドアが開くと
そこには、美佳と同い歳位のカナダ人女性が
起きたばかりの様子で
タンクトップにショートパンツという格好で立っていた。

部屋を間違えたかもしれない…
「友達のお宅かと思って… 間違えました」と言うと

その女性は
「デビットの友達?もしかしたら」と言い
美佳はそれに、黙ってうなづくと…

「ハニー、お客さんよ」と
驚くほどの大きな声で、部屋の奥に向かって叫んだ。
そして

出てきたのは
あのデビットだった。

とりあえず、30分後に近くのカフェで落ち合う事にし
美佳は、その場を離れた。
二人離れた間に、何があったのか
おそらく、あの女性はデビットの「彼女」。

カフェに現れたデビットは
以前のむさくるしい髪形ではなく
短髪で、見た目にも清潔感が溢れ見違えるようだった。

聞きたい事は沢山あるのに
何を、どう話せばよいのか言葉が出てこなかった。

デビットが、先に口を開いた。

「彼女、高校の時の同級生なんだ。
 ちょうど、美佳が日本に帰った頃に久々に再会してね。
 彼女、弁護士でさ
 離婚の事も仕事も彼女のお陰なんだよ。
 
 あのね…
 美佳が、嫌いになったとかじゃないよ。
 今でも好きだよ。
 でも、彼女と出会って
 俺、心底変わりたい 
 強くなりたいって思ったんだ。

 美佳は、俺が居るから 
 カナダに居たいって感じだった。
 俺が全てみたいに言われて
 結婚して、どうこうとか
 本当のとこ 
 わからなかった。

 一緒に居たいとは思ったけど
 君が見てるものと
 俺が見てるものは
 違うと思った。
 ちょっと、苦しかった」
 
長い長い、デビットの「別れの文句」を聞きながら
美佳は、自分が情けなくなってきた。

美佳には、一緒に居るには「結婚」と言う事しか手段が考えられなかった。
だから、デビットの離婚を待ち
一緒に居る事・結婚が目的になっていた。

そうは言っても、今日までメッセージひとつも寄こさず
都合の良い事を並べる、デビットに
罵って、泣きわめきたいのに
涙ひとつも、怒りや憎しみの言葉も浮かばなかった。

もう、カナダに帰る場所は無い。
カナダに居る意味は無い。
ここまで待って、ここまでやって来たのに
自分の目の前にあったのは

結婚というGOALではなく
別れというCALLだった。


デビットとカフェの前で別れた後
道の真ん中で
美佳は、今にも叫びたいほどの気持ちでいた。

美佳と離れている間に
妻・そして美佳以外の女を選んだ男・デビット。
容姿も心根も変わり、冴えないと思っていた男・デビット。
それなのに、いつの間にか
自分の方が
「釣り合いの取れない女」「ただただ、待つだけの女」になっていたのが
悔しく、悲しかった。

いつか二人で…
その「いつか」は永遠に来ない。

いつかという言葉は、夢や幻を思うための言葉だという事を
美佳は、今思い知った。

泣いても泣いても涙は流れ
どうやって、日本に帰ればいいのか
前が見えなかった。

The End!


山下久美子「瞳いっぱいの涙」(1985)

冴えない男が、それなりになっていた!

それなのに…
この手の話ね~これ以降も出てきますよ(꒪ཫ꒪; )
次回は、アプリ婚活な話でも行きましょうかね。

(ΦωΦ)フフフ…

 

TORIA (o ̄∇ ̄)/