オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

語られる過去⑦

toriadecafe.hatenablog.com

小百合の前に”住んでいたと言う恋人”は
アダムという男だった。
ジェシーとアダムは、1年半共に暮らし
アダムは「8カ月間、仕事で日本に行く」
と言って、部屋を出たきり戻らなかった。

彼は、日本で知り合ったアメリカ人男性と”恋に落ち”
その後、カナダに戻ったものの ジェシーの元に帰る事はなく
ジェシーが彼の様子を知った時には
その”恋人と「事実婚」同然の暮らしをしていた。

アダム…その彼は
ジェシーにとって
本当に、愛していた恋人だった

ジェシーは、アダムを失って一年近く経った時
エレンの橋渡しで、家庭教師として知り合ったのが小百合だった。

日本や日本語に、興味があったわけではない
アダムを自分から奪っていくきっかけとなった日本行き。
いつしか、ジェシーにとっては日本そのものが恨めしかった。

そんな日本の女性・小百合に
ジェシー
人間(ひと)としても
女としても
全く、何一つ興味が無かった。

そんな、何もないはずの出会いが
ジェシーのそれまでの人生を覆すほどのものに
いつしかなっていた。

小百合とジェシーは何日も
色んな事を話し合った。

ジェシー
 私が、最初からあなたの過去を知っていたら
 たぶん、私はあなたとは…こうなってなかったでしょうね
 本当のところね
 聞かなければよかった
 知らなければよかった
 そう思ってる。
 でも、もう遅いわね」

実は、ここに至るまで
小百合とジェシー
最後の一線を越えていなかった

「サユリ、自分は心の絆を大切にしたいから
 きちんとしてからにしよう」
 そう、ジェシーは言っていた。

でも、それは今になると
「言い訳」なのか「時間稼ぎ」なのか
そうとしか、思えなかった。

ジェシー、私を愛してる?
私を女として、愛してる?」 


ジェシーは、何も答えることなく困った顔をして
瞳をテーブルに落としてから

「愛してるよ。
 女としてって言うと…。
 でも、人として 
 僕は君を尊敬してるし
 愛しく思ってる。
 ずっと、一緒に居たい
 家族になりたい
 そう、思ってる」

その言葉は、本当なら「愛されてる者」として
十分な言葉。


それなのに、小百合には 
寂しく、哀しく聞こえた。

小百合は、自分の胸の中で 
自分に向かって呟いた。
そして、胸の中にささくれだった何かを感じていた。

「私はきっと、女として愛されて 結婚がしたいんだ」

色んな気持ちと葛藤しながらも
それでも、ジェシーが心から小百合という人間を愛してくれている
と言う事は、よくわかった。

だから、このまま結婚しよう…
そう決めた日もあった。
しかし、一度胸の中に出来た、ささくれは
おさまる事は無かった。

結局、果てしないほどの対話を繰り返し
二人は、一度 離れて暮らす事にし
結婚も解消ではなく、延期とした。

小百合は、結局
自力でワークビザを取得し 
仕事に没頭する日々を送った。
ジェシーとは、週末会いはしたが
結婚の話は 
何も進まず2年が経とうとしていた。

随分、長い月日が経ったような気がした。
そして
ワークビザの満了と共に、日本に帰国する決意をした。
それは
ジェシーとの別れを、意味していた。

カナダを発つ日
ジェシーは、空港で
「See you later... I love you」と言った。

小百合は、頷いたあと
「I love you too」
そう言って
振り返ることなく、出発ゲートへ歩き出し
前を向いたまま手を振った。

ジェシーはその、小百合の姿を

見えなくなるまで見送った。

小百合は日本に帰国し
カナダでの暮らしの感覚が
すっかり薄れ、胸のささくれを感じなくなった頃…
帰国から4か月たち
やっと、前を歩き出した。

そう…
自分の進むべき道を、ようやくはっきりと決めたのだ

ジェシーはというと 

結婚していた。

その横に居たのは、小百合
小百合は、影も過去も葛藤も乗り越えて
ジェシーと結婚する道を選んだのだ。

 


徳永英明「もう一度あの日のように」(1993)

苦しい決断だからこそ、堅い絆のはずだった

しかし、それは脆かった。
二人の結婚生活は
事実上、1年半で破綻する事となった…The End!


今日は、敢えて途中で曲を差し込みました。
実は、この話には後日談がまだ付くのです…。何で?なおも!という。

TORIA (o ̄∇ ̄)/