オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

クリスマスの恋人①

*これは、事実をもとに構成された”ハクションなおはなし”。
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47歳・クリスマスイヴの夜
啓子は「おかわり自由」のコーヒーを飲みながら、ファミリーレストランの窓辺の席に居た。

高校を卒業し、大学進学のため福岡から上京して30年。

18歳から30年・・・。

中村啓子、47歳。
文具メーカーの”課長”なんて言っても
ただ、女子の大卒でずるずると長く勤めているものだから
オマケに与えられたような
そんな役職。
それに、とても親にも誰にも言えないけれど
その課には、啓子ひとり。
ひとり課長・一人課員。

3年前に人事部から話を聞いた時、これは肩たたき人事にしか思えなかった。
でも、辞める理由はない。
辞めたら何もない。
だから、しがみついた。

読むでもない雑誌のページをめくりながら
啓子は、道行く人たち、道行く恋人たちを眺めて思った。

いつからなんだろう?
「クリスマスは恋人と過ごす」

それが、恋人が居る者の常識
王道みたいになったのは・・・。

啓子は、恋人とクリスマスを過ごした事が無い。
恋人がいなかった訳じゃない。
ただ、クリスマスには何だかんだと理由(わけ)あって一緒に過ごす事はなかった。

20代の頃は
恋人のいない女友達同士集まって、食事をしたものだ。

しかし、30代になった途端
親友と思っていた女友達は、次々と結婚し
気が付けば クリスマスを一緒に過ごす友達がいなくなっていた。
それでも、さほど寂しさは感じなかった。

そして、40代
女友達からの連絡は、年賀状と暑中お見舞いだけ。
それも、子供の事や親の介護が…という話が綴られてくるようになると
「私はいったい、何をやっていたんだろう」と思う事が、しばしばあった。

それでも、まだ”ほんとうの寂しさ”は、啓子には無かった。
何しろ、ここ数年はクリスマスの頃に仕事が忙しく
残業しながら、クリスマスの夜を迎えた。
その夜を共に過ごすのは
同期入社で、同じ福岡出身の政幸だった。

彼・・・
政幸とは、友達以上 恋人未満。
酔った時に手を繋ぎ
酔った時に、キスをしただけ。
はっきりと、付き合ってるとは言えない微妙な間柄。
でも、居心地が良かった。
この年齢にまでなると
見た目がどうこうとか、年収が幾らかよりも、居心地よく居られる事。

去年のクリスマス

「なぁー啓子、俺たちさ
 来年も
 ここに、こうやって居るようだったら
 もう結婚しちゃおうか!
 だって、もう この先きっと
 誰もいない感じするもん」

それは、政幸の”照れ隠し”なプロポーズに聞こえた。

その時から一年が経ち

そうなるはずだった!

だから、2時間前 
目の前の光景が、信じられなかった。

「つくり笑い」が出来ていたのか
覚えていない。

「いやいや、啓子。こんなファミレスでごめん」

プロポーズされるはず・・・だった!!

「あのさ、やっぱり 親友のお前には
 いちばんに報告しときたいな…って思ってさ。

 俺さ、総務課の小川さんと 来年春に結婚する事になった。

 もうすぐ、彼女もここに来るんだけどさ」

それ以上、啓子の耳に政幸の言葉は入らない。

そして、遅れて現れた23歳の小川久瑠実は
歳を重ねた啓子とは
あまりに違い過ぎた。

若い…
あぁ…若い。

47歳の政幸と23歳の久瑠美。
親子ほどの、歳が違う二人を目の前にして言葉が出てこなかった。


この一年で
たった一年で
啓子は、知らぬ間に 置き去りにされていた。
いつの間に、そんな。

何を話したのかも覚えていないまま
気が付けば、一人。

「案外、好きだった? 愛してた?」
何も始まる事もなかった政幸との、恋なのか愛なのかわからない時間は
突然終わった… to be continued.


KoN with 辛島美登里「愛はどこに」(2012)

 

今回、10年ほど前のブログでUPしていた連載モノを再構成してみよう!と
思い立ちました。

この「ハクションなおなはし」シリーズは
読者様からのリアル体験をもとに、小説を描く!という企画物。
恋バナの類が苦手な私にとっては、これは大いなるチャレンジでしたけど
この企画がきっかけで、コラムと音楽の融合スタイルが出来上がっていきました。

TORIA (o ̄∇ ̄)/

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