オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

箱の中の約束⑥

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翌朝、ベッドでリチャードの隣で目を覚ました涼子は
彼が目を覚まさないうちに、バスルームに向かった。
愛された記憶が、頭に
体の隅々に
残っていた。
でも、鏡に映った自分の顔はいつもより老けて見えた。

もしかしたら、これが「本当の自分」なのかもしれない。
もう、そんなに私は若くない。

そう思うと、涼子は無性に”安心”が欲しくなった。

今日の夜には、リチャードは日本を発つ。
遅めの朝食を、レストランで二人で摂っていると
どのテーブルの人たちも、自分たちを見ている気がした。

このホテルでは、外国人客など珍しい訳ではない。
「もしや、私と外国人男性というのが不釣り合いにみえるのだろうか?」
そう、涼子には思えてならなかった。

二人、パソコンの無い空間では無口だった。
気まずい空気を感じながら、パンに手を伸ばした瞬間
リチャードが

「Will you marry me?」
と、英語で問いかけてきた。
その後「本気だよ」というような事を、言ったように思えた。

「は?」と涼子は、言ったまま無表情だった。
幾ら英語がわからない涼子でも、それ位は理解できる。

涼子は「こんな時、どうするんだっけ」と思いながら
食事をする手を止めなかった。

結局、何も答える事無く食事を終え
ホテルをチェックアウトする時間まで
結局、二人は何も言葉を交わさなかった。

空港に向かうリムジンの中、まだ二人は黙ったまま。
ただ、手は繋いでいた。
空港に着けば、また二人は「箱の中」でしか会う事が出来ない。

箱の中で会う事が、当然だったはずなのに
今は、それでは満足出来なくなっていた。

涼子は、箱の中で積み重ねてきた時間
リアルのリチャードと過ごした時間
そして、たった一夜 抱かれた時間を
頭の中に巡らせていた。

色々思いだしても、考えても 
さっき、リチャードが問いかけた言葉の答えは出てこなかった。

普通に考えたら、あり得ないような話。
ネットの出会いで
しかも、リアルに会ったばかり
一夜を共にしただけ
それで、結婚なんて…あり得ない。
でも、涼子の中には 
これだけで終われない思いが、一気に寄せてきていた。

もしかしたら、これは私が幸せになる
       最後のチャンスかもしれない

時間は、瞬く間に過ぎ
気がつくと、出発ゲートの前。

リチャードが、すこし涙ぐんだような目で
ずっと涼子を見ながら
最後にもう一度聞くよと言い
「Will you marry me?」と呟いた。

涼子は 黙って頷いていた。

別れの抱擁もキスもなく
二人は、お互いの手を重ね合わせた。
それは、キスよりも熱く 親密だった。

手を振りながらゲートに消えていく
「リアルの彼」を見送りながら
ほんとうの幸せが もう、そこまで来ている気がした。


リチャードを見送った日から4カ月
涼子と息子の俊哉は、カナダ東部の町の空港に居た。

涼子は、離婚以来働いてきたブティックで
「結婚してカナダに行く」と告げると
同僚は、祝福よりも驚きをあらわにした。

ただ、俊哉がどう思うか
反対するなら止めよう、そう思っていた。
しかし、俊哉は
「あのおじさんならいいよ。
外国人のお父さんなんて格好いいじゃない!」と喜んだ。

結婚するにも、日本を離れるにも
相談する人は誰も居ない。
身軽で、気軽ながら、ほんの少し寂しさがあった。

でも、もう違う。
目の前には
自分の人生、最後まで一緒に歩き続けるであろう
「その人」が居た。
... to be continued.

 


Keri Noble - Piece Of My Heart (2004)


安心を求めて、幸せを掴みに行ったね~。
安心ね…。
(゜-゜)うーん、安心。

 

TORIA (o ̄∇ ̄)/

 

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