オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

箱の中の約束④

toriadecafe.hatenablog.com

 

リチャードが日本に来る!

涼子は、嬉しさよりも不安が先に立った。
何より、彼が来たところで
どうやってコミュニケーションを取ればいいのか!

”箱の中”では、翻訳ソフトが二人の会話を繋いでいた。
しかし、リアルに会うとなれば、そう言う訳にはいかない。
いちいち、スマートフォンの翻訳アプリを使いながら話すのか!?

色々と考えた挙句、涼子はリチャードの出迎えに行く日と翌日、
帰国子女の学生を、通訳として頼む事にした。
それはそれで、あり得ない!と自分で思いはしたが
スマートフォンを片手に、リチャードと会話をする事の方が
涼子にはハードルが高かった。
それに、ビデオ通話でコミュニケーションを持ってきたとはいえ

オンラインとリアル

きっと、何か違いがあるはず。そう思うと、恐さしか今は無かった。

梅雨が明け、その日はとんでもない暑さ。
成田空港は、平日というのに人が多い。
夏休みだからだろうか…
そんな事を思いながら、歩いていると
約束の場所に、通訳の女子学生らしき人が見えた。

長身で、化粧っ気もないその学生・ゆきこは
挨拶する以外、余計な事を語らない。
もしや、こういった通訳に慣れているのか…。

ゆきこには詳しい事情は話さず
これから到着する彼(リチャード)は日本に来るのが初めてで
今日、宿泊先に移動するまでのサポート。
明日、少し観光と買い物に付き合い
必要な通訳をして欲しいと頼んだ。

到着時間より20分以上遅れて、トロントからの飛行機が着いた。
到着ゲートからなかなか、リチャードの姿は見えない。
彼が出てこない不安と
リアルに会うことの不安が重なり、涼子は胃が痛くなった。

飛行機の到着から、1時間近く。
やっと ”リチャードらしき”男(ひと)の姿が見えた。

涼子は、自信なさげに”その男(ひと)”に手を振ると
その彼は、ハッとした表情で、次の瞬間には笑みを浮かべながら
涼子に向かって歩み寄ってくる。

何やら、早口で言っている。

通訳が「こんにちは、ようやく会えましたね」と言うので
涼子は、慌てて「あーどうも」と素っ気ない挨拶をした。

この暑い時期なのに、リチャードは茶系の厚手のスーツを着ている。
物は高級そうに見えるけれど
ひどくやぼったく、垢抜けていない。
しかも、パソコンの画面で見るよりも老けている。

涼子とリチャード
二人とも、何も言葉を発することなくラウンジバスに乗り込み
その日はリチャードを、箱崎のホテルまで送った。

家に帰り着き、涼子は「現実」を見た気がした。

若い子じゃあるまいし
「男はルックス」なんて歳でもない。
でも、ひどく「箱の中」とのギャップを感じた。

涼子は、夜10時になると
一応、パソコンのビデオ通話ソフトを立ちあげた。

すると、リチャードが呼びかけてきた。

「涼子! 君のリアルな姿は素晴らしく美しかった」

その言葉に、涼子は涙が溢れた。
リチャードが、自分の「リアルの容姿」を見て
こんなにも、褒め称えてくれている。
それなのに
自分は、胸の内で彼の容姿や身なりを査定し
こんな遠い日本まで来てくれた事を、感謝する言葉さえ言えなかった。

リチャードは、涼子がいきなり泣き出した事に驚き
どうしたのかと、たくさんの言葉を並べた。
だが、涼子はしばらく
泣き続けるだけだった。

明くる日は、涼子の息子・俊哉も一緒に浅草へ繰り出した。
俊哉がどんな反応をするか心配だったが
意外にも俊哉とリチャードは言葉がわからないにも関わらず意気投合。
英語と日本語でそれぞれ声を掛け合っては
お互いがそれを理解しているように見えた。

涼子は、リチャードを見た目だけで一瞬でも評価してしまった自分を悔いていた。
自分が箱の中で思い描いていたリチャードと現実が
今は重なりつつあった。


通訳のゆきこに、いくつか観光スポットを案内してもらい
早めの晩御飯を食べて、皆が別れたのは夜8時。
健全な子連れデートでその日は終わった。

明日からは、リチャードは鎌倉に居る友人の所に1週間ばかり宿泊するという。

その夜のビデオ通話で、リチャードが帰国する前の3日間
東京に戻り宿泊すると伝えてきた。

そして、次に

「過ごしたい。君と二人だけでその時を。無理だろうか?」

リチャードが二人だけで、過ごせないかと言っている。

涼子は、急に胸の鼓動が速くなった。
それが、何を意味するか…。
胸が詰まるような思い
久しく忘れていた感覚に、体が小さく震えていた。

「子供もいるし、ちょっと返事を待って」
それだけを告げるのが、精一杯。

ちょうど、リチャードの帰国前日・当日は
俊哉は夏の子供キャンプに行く事になっている。
だから、二人だけで過ごす事に何も障害はない。
しかし・・・

二人の胸の内には、全く違う思いが過っていた。

リチャードには、答えをすぐに出さず 
恥じらう涼子が可愛く見えた。

涼子には、リチャードと現実の世界で二人きりで会う事が
次なる正体のわからない「箱」に入り込む気がして
怖かった。
... to be continued.


Dreams Come True - その先へ(2010)

オンライン上とリアルで会った時のギャップ!
これは、絶対ありますよね~。
たぶん、男女だと
”その差”を大きく感じるはあると思います。
この手の話は、いろいろ知ってるだけに…(* ̄▽ ̄)フフフッ♪

TORIA (o ̄∇ ̄)/

 

toriadecafe.hatenablog.com