オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

クリスマスの恋人⑦

toriadecafe.hatenablog.com

 

土曜の朝、目が覚めると
時計の針は11時を指していた。

昨夜、家に帰り着いてシャワーを浴び、ベッドに入ったのがちょうど深夜0時。
昨夜のホストクラブでの時間が、夢だった気がして
思わず
バッグの中のカイトの名刺を取り出した。

確かに、ある。

カイトに右手に触れられた感覚が蘇る。
啓子は急に、胸の内をギュっ!と何かに掴まれた気がして
胸を押さえ、ふーっと息を吐きだした。

気を取り直し、食事をあるもので済ませ
洗濯を終え・・・。
「今日はどうしようかな」
これといった趣味も、会うような人もいない。

とりあえず…
啓子は持っている服の中で
いちばん値が張り
 ”それなり”に見える一張羅を着ると
高めのヒールを履いて、外に出た。

向かう先は あの場所

昨夜が最後のはずが。
”虚飾の世界”だとわかっているはずが。
あの心地良さの中へ、カイトの瞳の中へ 
もう一度入りたくて、自然に足が向いた。

まだ、店は開店したばかりの時間。
今日は”ひとり”で 
誰に背中を押される訳でもなく、啓子は店内に足を踏み入れた。

席に通されると、間もなくカイトが姿を見せた。

「啓子さんがまた来てくれるなんて・・・
 会いたいって思ってたけど
 もう、来てくれないんじゃないかって
 思ってたんですよ。
 こんなにすぐに会えて、嬉しい。
 あーどうしよう・・・」

まるで、同い年の彼女にでも言うような口ぶりで
カイトは、そんな甘い言葉を連ねる。

啓子はそれに何も答えず、うつむいて
はにかんだ。

「僕ね
もっと啓子さんのこと、知りたい!
 何でも、聞きたい。
 それに、僕の事も知ってほしいよ」

今まで数える程にも至らないくらいの、恋愛経験しかない。
それでも、今までにこんな“ときめくような”思いを感じた事は初めてで
啓子は、自分の感情に戸惑っていた。
 
会社では目立つ存在ではなく
どちらかというと、社交的でもないし男から好かれるタイプでもない。
そんな啓子が、今 
カイトの目の前では笑いながら
あれこれと
女友達にもした事のない話までしている。

「まだ、会って3度目
 あ! 実際は~今日で2度目みたいなものよね。
 それなのに、私、なーんで
 こんな話しちゃってるんだろう」

すると、カイトは啓子の目をじっと見ながら
小声で囁いた。

「時間じゃなくて、出会うべき人に出会うと
 何でも、言葉も心も開放されちゃうんです。
 だって、僕だって啓子さんに出会って
 それ、感じてるもん。
 だから、僕の前ではどんな啓子さん、見せてもいいんですよ」

カイトはおもむろに、軽く啓子の肩を抱き寄せ
自分の方に身を預けるようにすると、急に腕に力を込めた。

 

営業なんだよね…これって

わかっているのに
啓子は、恥ずかしくて
表情を見られないようにうつむいた。
自分がどんな顔をしているのか、想像するだけで恥ずかしい。

「そういえばね、来週の金曜
 僕の誕生日なんです。
 一緒にお祝いしてくれませんか?」

啓子は「うん」と小さく声に出すと
カイトは、満面の笑顔を見せた。

「もーう、今日サイコーすぎるよ。
 啓子さんのために、歌いたくなってきた」

何もかもが、啓子から見れば子供っぽく見えるのに
それが愛しくなりつつあった。

その夜は
カイトの細く高いボイスで奏でられる歌に酔いしれ 
啓子は、24歳のカイトの手に 

落ちようとしていた… to be continued.


髭男dism「Pretender」(2019)

この曲を歌う、カイトの姿とボイスに酔いしれる
啓子の姿が見えるようです。


TORIA (o ̄∇ ̄)/

 

toriadecafe.hatenablog.com