オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

クリスマスの恋人⑧

toriadecafe.hatenablog.com

 

啓子はカイトの誕生日を、ドンペリのロゼで祝った。
その日の会計、19万8千円という金額を見て背筋が凍った。
家賃を含め、1か月の生活費に近いお金が
ほんの数時間で消えたのだ。

それでも、次の瞬間
「今日だけは、特別な夜」

非現実的な贅沢は、今日だけだから…と、啓子は
その“浪費”をよし!とした。

季節は春を迎え、啓子は人事異動の内示を受けた。

行く先は、資材管理室。
あの52歳の大山が室長をしている
通称「窓際どころか窓の外」と呼ばれる部署だ。
そこの課長として、啓子は異動するのだ。

ただでさえ、日々の仕事に遣り甲斐も何も無く
去年のクリスマスを境に
会社の中での“自分の立ち位置・未来”など全く見えず
暗澹たる気持ちだけだった。

それが、今度は「窓の外」

会社を辞めたい・・・
そう思っても、もはや
退職も転職も考えられない年齢。

「あー、中村さんね。
 そこ。あなたの席だから」

無愛想に、室長・大山に迎えられた資材管理室。
”窓は無く”
空気がよどむ灰色の空間。
「姥捨て山」と呼ぶ人もいる。

今、足を踏み入れた“その空間”は
そう呼ばれても仕方が無い、空気を放っていた。

異動の日を境に
啓子は、金曜・土曜と【CANDY DANDY】に通うようになった。

ほんの、ひとときでも、ささやかでも
カイトと向き合っている時間は
啓子に、辛い現実や考えたくない未来を忘れさせた。
そうして、目の前の見たくない現実から逃げれば逃げるほど
啓子の気持ちは、カイトに向かっていった。

「啓子さんは特別。
 僕、お客さんだなんて思ったことないよ」

いつの間にか、カイトの言葉は
近しい間柄の“ソレ”になっていた

カイトにとって、特別の存在になりたい!
そんな幻想を抱き、カイトの指名を繰り返しては
高いお酒をオーダーするようになった。
くわえて、啓子は服や美容に以前よりお金を掛けるようになった。

会社の方は…というと
毎日、単調な仕事の繰り返し。

「中村さん」
室長・大山に呼ばれて、資材チェック表を手にすると

「いいわよ、席に座ったままで」
そう言われる。

部署には、大山と啓子だけ。
たまに出勤するという、嘱託の林には未だ会ったことがない。

「中村さん、あなた最近、雰囲気変わったわね。
 オンナがガラリ変わる時って
 あんまり良い事無いのよね…。

 だからと言って、あなたがヤバそうとか
 そういう事じゃないわよ。
 でも、変わったな…って思って」

大山の物言いは、妙に意味深だ。

その日の昼休み、啓子は銀行に居た。
もう、何回か定期預金を解約している。

毎週のホストクラブ通い、服や美容と…
お金は、嘘のように泡のように消えて行った。
その事に、大きな迷いや葛藤がありながらも
止める事が出来ない。
もう、解約出来る定期はこれ以上ない。

「どうすればいいんだろう」

啓子は、名前が呼ばれる数分の間 
迷い、考えながらも


名前を呼ばれると 
通帳を手に窓口に向かった... to be continued.


Joan Osborne「One of Us」(1995)


人生に魔物が棲みついた…って感じなんでしょうか。

TORIA (o ̄∇ ̄)/

 

toriadecafe.hatenablog.com