オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

調査部の男③~あるOLの回想

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受話器から漏れ聞こえてきた声は、中年の男の声だ。

それが、誰なのか
わたしには、わからなかった。
しかし、その声の主は 
わたしに呼びかける事なく、誰か違う…
それも、社内の誰かに声を掛けていた。

「駄目だよ!
 さっき、丸岡さんが取ったのに。
 僕に変わってくれって、言ったろう。
 あの人、怪しんでるんだから注意してくれよ」

その言葉に、甘ったるい声が答える。

「えー、だって!部長の声が聞きたかったんだもん♪」

わたしは、そのやり取りに凍りついた。
そして、次の瞬間 
「その二人」が誰なのかを知った。

これは

社内不倫。
何より、わたしを凍りつかせたのは
この部屋の
この電話に
何故、あの二人の会話を聞くことが出来るようになっているのか
それが不思議で、怖かった。

まさか
調査部とは…

会社の社員のあらゆるコト
それは「不祥事」の類を調べている所なのではないかと
わたしは勘付いた。

まるで、ドラマの「特命ナンたら」のような人が、部署があるなどとは
誰も思わないだろう。

確かに、これは 知られてはならない

わたしは、恐る恐る受話器を置くと
とんでもない事を知ってしまった恐ろしさに
しばらく、手がが震えた。

一方、森から頼まれたK産業のFAXは来ることなく
わたしはどうしたものかと、困っていた。
森と顔を合わせる前に、この場から去りたい。

しかし、FAXは昼を過ぎても入ってこない。

やっと、待ち焦がれた書類がFAX機から流れてきたのは
3時を過ぎていた。
わたしは大急ぎで、頼まれた仕事を終えると
一刻も早く、ここから立ち去ろうと席を立った。
だが、その瞬間 
森が予定よりも早く、外出先から帰ってきた。

「書類が来たのが、ついさっきで
 今しがた返送したところです」
森にそう告げると

「ありがとう。助かったよ」と言い
すこし笑みを浮かべる。

この男の笑い顔を見たのは、初めてだ。

「そういえば、君 
 何か変わったことはなかったかな?
 電話は鳴らなかった?」

「あ・・・
 実は、お恥ずかしい事に
 わたしウトウトしてしまって
 その時に、電話の音で目が覚めたんですけど
 もちろん、電話は取ってません」

「あ! そう、それならいいよ。
 ま、何もやることないから、居眠りしちゃうよね」

森は、また軽い笑みを浮かべる。

「じゃ、これで失礼してよろしいでしょうか」

「あぁ、本当にありがとう。
 あと、もう一度言っておくけど
 ここの事は、他言しないように!」

森は、また強く強く語尾に力を入れて 念を押す。

わたしは、声にならない声で
「はい」と答えると、足早に調査部の部屋を出た。

それから、6年後…

わたしが、エース物産を辞めた後
風の噂に聞いたのは

開発調査部の森が
エース物産の取引先である
大手商社の役員に就いたという話だった。

普通なら、あり得ない

何の役職もない森が
いきなり、他社の
それもエース物産よりも格上の、会社の役員になるなんて!

しかし、わたしには合点がいった。

「ロバの耳」から何かが漏れださないように
エース物産の役員たちが、力を尽くしたであろう事を。
The End.


MISIA - つつみ込むように(1998)

あなたの会社にも…
調査部ありますか!? (ΦωΦ)フ

 

TORIA (o ̄∇ ̄)/

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