オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

人事課の女③~あるOLの回想

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永年表彰式の会場は、会社近くのTホテルで開催される。
会場に行ってみると、なかなか盛大に催されるようで
わたしは驚いた。

ここで、何を手伝えばいいのか
わたしは、木村課長の姿を探した。
そういえば、会場の横の個室が設営準備に使われると聞いていた。

わたしは、うっかりノックもせずに
その部屋のドアを静かに開けた。

見えてしまった!
見てしまった!!
中に居る「ふたり」は気づいていない

わたしは、思わず見てはいけないものを見た気がして
急いで、ドアを閉めた。
何か、特別まずいものを見た訳ではない。
しかし、そこに居たのは
噂の、あの木村課長と三枝副社長だった。

その様子は、ただ向かいあい
静かに話している

それだけ。わたしの、偏った見方を避けたとしても
そこには何か「親密」な空気が漂っていた。

わたしは身の置き場が無く、会場とその個室の間を
行ったり来たりしていた。

5分ほどすると、三枝副社長が出てきた。
その姿は、社内で見かけるのと何も変わらず
近づきがたい、役職付きの男の姿。
その男の足元に、何かが落ちた。

わたしは「あっ!」と小さく声をあげながら
拾い上げ、咄嗟に副社長の元に近づくと

「これ、落とされましたが」と
胸元についていたと思われる、赤い花の飾りを差し出した。

「あ、どうも」
三枝は、低い声でそう言うと
わたしの手から、その赤い花を受け取った。

わたしは見逃さなかった。
その手が、かすかに震えていたことを。

わたしはそれから、個室をノックすると
木村課長の「どうぞ」という声が聞こえ
今度は、“キモチ勢いよく”ドアを開けた。

そこに居る木村の表情は
何故か、いつもより晴れ晴れとして見え
さっきの三枝副社長の震える手とは、対照的だった。

わたしは
男と女というものを
それほど、知らないはずなのに

それなのに…
ここで
何かが、終わり
何かが、始まった。
そんな「したたかな愛のカタチ」を嗅ぎ取った。

それから半年後…。

三枝副社長は、退任し相談役に就いた。
そして、木村課長は異例中の異例人事で
次長に昇進した。

男は涸れ、女は咲いた

それから…次の春のこと。
あっけない死だった。

三枝前副社長の告別式には、無表情の木村の姿があった。

しかし、わたしは見逃さなかった

その女の、その目が
どれだけの
涙を流したことか…を。

The END.


大橋純子「シルエットロマンス」(1986)

人事課の女、木村。
幸せだったのでしょうか・・・ね。
さて、明日はまた違う部署の話が続きます。

TORIA (o ̄∇ ̄)/

 

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