オンライン講師が描く「ハクションな日常」

人生はハクション*くしゃみしたら吹き飛んでいくような

再び、調査部の男③~あるOLの回想

toriadecafe.hatenablog.com

 

カナダ・バンクーバーまで来て
何故、あの「調査部の男」とレストランで向かい会っているのか…
わたしは今さらながら、不思議だった。

「縁」がある!ということなのか!?

「いや~まさか、こんなところで
 あなたとお会いするとは思わなかった!」
森は、大げさに声を張り上げた後
すぐに、”あの頃”の得体の知れない森の声に戻り
ボソッとわたしに告げた。

「私の事を、陰気な男だと思ってたでしょ」

わたしは、ゾクッとして思わず肩をすぼめ
「そんな!」としか言葉が出なかった。

「いや、いいんですよ!
 みんな私の事を、何者なのか
 何やってる部署なのか
 窓際ぐらいに思ってたでしょうからね」

自虐的な言葉を森は並べ立てた後
ぐいっ!と体を私の方に寄せて話し始めた。

「私はね、あの会社で
 言えないような仕事を、沢山してきたんですよ」

その言葉には、大きな恨み辛みが籠っていた。

「とは言っても、人殺したりとかじゃないですよ」

そう付け加えた森の言葉に
わたしはまた、背筋が凍りそうな感覚を覚えた。

運ばれてきた食事に、森は手を付けることなく
ただただ、話し続ける。

「私はこれでも、入社当時は
 花形の海外事業部で仕事してたんですよ。
 ずっと、あそこで 
 それこそ会社の中核を担うんだ!なんて、意気揚々でいましたよ。
 でもね・・・

 入社から15年経った時にね、いきなり社長に呼ばれたんですよ。

 君は学歴もあって、仕事も出来る。
 周りからの評価も高い。
 しかも、口が堅い。
 君にしか出来ない仕事をして欲しい!
 そう言われたら、嬉しくてたまらないじゃないですか。
 それも、社長直々にですよ」

わたしは「すごいですね」と合いの手を入れた。

しかし森は、一気に苦々しい顔になった。

「でも、それが調査部ですよ!
 あそこではね・・・
 
 もしかしたら、あなたも気が付いてるでしょうかね…。
 一度、留守番に来てもらいましたから。

 あそこはね、会社のありとあらゆる秘め事・トラブル
 つまりは不祥事が集まる場所
 それを掃除する場所だったんですよ。
 それこそ、社員の不正や不倫
 上役たちが海外出張に行って、起こした女性問題の処理
 先々代の社長の葬儀には、愛人と隠し子とかいう
 訳わからないの、出てきて・・・その始末。
 ありとあらゆる 面倒な事を
 私が一手に調査して、片付けました。
 
 不倫じゃなくても
 社内の誰と誰が付き合ってるとか
 誰がいつ、どこのラブホテルに入って行ったとか
 そう言う事も、すべて知ってましたよ」

わたしは、その話に驚きながら
どう反応をしていいものか、わからずにいた。

「でもね、会社のためとはいえ
 やっぱり 
 そういう仕事は気持ちいいもんじゃないですよ。
 馬鹿馬鹿しくて、やってられないって何度も思いましたよ。

 特にね、上役が中国で愛人作って
 その後始末のために、出張させられるなんてやってられなかった!
 でも、その見返りが、今のこの私の華々しいポジションですよ」

わたしは、やっと言葉を押し出した。

「そうすると… わたしなんかの事も
 調べたりとかあったんでしょうか?」

「あー、あなたの事もね
 中途で入ってきたとき、もちろん調べましたよ。
 でも、あなたは特に何もなかったなー。
 口も堅いし、あまり女子社員ともつるんでなかったでしょ」

「でも、森さん。そんな秘密を
 今何で、わたしに話してくれたんでしょうか」

森は、わたしの顔をじっ!と見ると
次の瞬間大声で笑い
改めて、わたしの顔をじっ!と見た。

「墓場まで持っていく覚悟でしたよ。
 でもね、さすがに重すぎる!
 馬鹿馬鹿しすぎる!!
 だから、どうせなら 
 墓場まで一緒に持って行ってくれそうな人をずっと、探してたんですよ。

 あなたは、それに丁度いい人だった」

わたしの顔は引きつっていたにちがいない。
しかし、森はその後も上機嫌に笑い続けていた。
きっと、長年の重荷を降ろしたからか…
それとも、わたしに暴露する事で積年の恨み・辛み、復讐を遂げる事が出来たからか。

よりよい会社を作るため
平和に見える会社を作るため

実は、どこの会社にも
森のような「任務」を背負った人間がいるのかもしれない。

それにしても
わたしも、これを
墓場まで持っていく自信は無い…The End!

 


Michael Sembello - Superman (1983)

あるOLの回想
これにて完結!

TORIA (o ̄∇ ̄)/